2026年5・6月 活動報告

目次

議員間討議を「雑談・賛否表明」で終わらせないためのファシリテーション研修

2026年5月・6月も、全国各地の議会において研修を実施してまいりましたが、今回は議員間討議を実際の委員会運営の中で機能させるためのファシリテーション研修を中心に実施いたしました。

目次

1.実施議会・自治体と、議員間討議をめぐる現場の課題
2.討議を深めるための論点設定と決算審議
3.委員長・副委員長に求められるファシリテーション
4.委員会の「前・中・後」で討議を設計する
5.議員間討議の先にあるもの


1.実施議会・自治体と、議員間討議をめぐる現場の課題

実施議会・自治体

・千葉県町村議長会
・土浦市議会
・戸田市議会
・大町市議会
・宮古市議会
・湯沢市議会
・ほか多数

県内の町村議会を対象とした合同研修から、個別の市議会・町議会における委員会単位の研修まで、それぞれの議会の状況に応じた内容で実施しました。

議員間討議をこれから導入しようとしている議会だけではなく、既に制度や手続を整え、実際に討議を行っている議会からの相談も増えています。

議員間討議をめぐる現場の課題

全国の議会の現場に入る中で、近年特に多く伺うのが、次のような相談です。

「議員間で話し合ってはいるが、まとまらない。」

「様々な意見は出るが、何が明らかになったのか分からない。」

「討議をした後も、結局それぞれが最初と同じ意見を述べて終わってしまう。」

「時間をかけて議論しているが、審議が深まった実感がない。」

「何を決めたのか、次に何をするのかが残らない。」

議論が止まってしまうことよりも、むしろ、議論そのものは活発に行われているにもかかわらず、まとまらない、深まらない、何も決まらないことの方が、多くの議会に共通する課題です。

発言が多いことと、討議が機能していることは同じではありません。

一人ひとりが自分の意見を述べるだけであれば、意見表明の積み重ねにはなっても、委員会としての議論にはなりません。

重要なのは、出された意見を基に、

「何が共通しているのか。」

「どこで認識が分かれているのか。」

「何が事実として確認できているのか。」

「さらに何を明らかにする必要があるのか。」

「委員会として、何を論点として、どんな質疑に繋げていくのか。」

を整理することです。

今回の研修では、討議の時間を設ける方法ではなく、出された意見を審議の深化と意思決定へとつなげる方法を中心に取り上げました。

議論は行われている。しかし、まとまらない

議員間討議では、多様な意見が出ること自体は重要です。

議員はそれぞれ異なる地域、住民、職業経験、問題意識を背景に議会へ参加しています。そのため、同じ議案や事業を見ても、注目する点が異なるのは当然です。

問題は、意見の違いがあることではありません。

異なる意見を出した後、整理しないまま終わることです。

例えば、決算審議において、ある事業の成果について討議を行ったとします。

一人の議員は、事業費が増加していることを問題にする。

別の議員は、利用者数が少ないことを指摘する。

別の議員は、必要な住民にサービスが届いていないと述べる。

また別の議員は、担当職員の負担や実施体制を問題にする。

いずれも重要な観点です。

しかし、それぞれが自分の観点を述べるだけでは、

「結局、この事業は成果が出たのか。」

「決算として何を評価して課題とするのか。」

「次年度に何を改善すべきなのか。」

が整理されません。

討議の目的は、無理に一つの意見にまとめることではありません。

合意できない場合であっても、

・一致している点
・意見が分かれている点
・判断に必要だが不足している事実
・今後さらに検討すべき論点

を明確にすることはできます。

何が一致し、何が一致していないかを明らかにすることも、討議の重要な成果です。


2.討議を深めるための論点設定と決算審議

討議の質を左右する「論点設定」

議員間討議において最も重要なのが、論点設定です。

論点とは、単なる議題やテーマではありません。

「決算について話し合う。」

「この事業について意見を出す。」

というだけでは、討議の対象が広すぎます。

論点とは、委員会として、何を明らかにし、何について判断するのかを絞り込んだ問いです。

討議がまとまらない場面では、多くの場合、議員がそれぞれ異なる問いに答えています。

ある議員は事業の必要性を論じ、別の議員は執行方法を論じ、別の議員は予算額を論じている。

同じ事業を扱っていても、見ている階層が異なるため、議論が交わりません。

そこで必要になるのが、具体と抽象を往復することです。

個別の事業や数字だけを見るのではなく、

・この事業は、どのような目的で実施されたのか
・誰の、どのような課題を解決しようとしたのか
・目的に対して、どのような成果が出たのか
・成果が出なかった要因は何か
・次年度に改善すべきなのは、目的、対象、手法、体制のどこなのか

という一段上の視点へ引き上げます。

その上で、再び個別の実績、利用者数、事業費、住民の声、地域全体の数字などへ戻ります。

具体だけでは、個別の事実の確認に終わります。

抽象だけでは、理念的な話に終わります。

具体と抽象を往復しながら、委員会として扱う論点を絞り込むことが、討議を深めるためには欠かせません。

決算審議では、何を論点にするのか

決算審議は、単に予算が適正に執行されたかを確認するだけではありません。

その事業によって、何が実現したのか。

当初想定した成果が得られたのか。

得られなかったとすれば、何が原因だったのか。

その結果を次年度の予算や事業改善へどう反映するのか。

ここまでを考えることが重要です。

しかし、実際の決算審議では、

「何人が利用したのか。」

「なぜ不用額が出たのか。」

「委託先はどこか。」

「前年度より増えたのか、減ったのか。」

といった事実確認だけで終わることがあります。

もちろん、これらの確認は必要です。

ただし、事実を確認しただけでは、事業の評価にはなりません。

例えば、利用者数が前年度より減少していたとしても、それだけでは事業が失敗したとは判断できません。

対象者そのものが減少した可能性もあります。

支援を必要とする層に、より重点的に届くようになった可能性もあります。

一人当たりの支援内容が充実した可能性もあります。

一方で、制度が知られていない、利用しにくい、対象設定が実態と合っていないなどの課題があるかもしれません。

ここで議員間討議を行うのであれば、

「利用者数が減ったことを、どのように評価するか。」

ではなく、

「この事業が目指した成果は何か。」

「その成果を判断するために、利用者数以外に何を確認すべきか。」

「成果が十分でない原因は、周知、対象、手法、実施体制のどこにあるのか。」

「次年度に改善を求めるとすれば、何を求めるのか。」

という形に論点を設定する必要があります。

この論点が明確になれば、執行部への質疑も変わります。

単に数字の増減を聞くのではなく、

・目標と実績の差をどのように分析しているか
・対象者にサービスが届いているかをどのように把握しているか
・利用しなかった人、利用できなかった人の状況を確認しているか
・成果が出なかった原因をどのように捉えているか
・次年度は何を変更する予定か

といった、審議を深める質疑につながります。

3.委員長・副委員長に求められるファシリテーション

論点は、委員長が一方的に決めるものではない

論点設定が重要だからといって、委員長があらかじめ一つの論点を決め、そこへ全員の議論を誘導すればよいわけではありません。

委員長が最初から結論や問題意識を固定すると、討議は委員長の考えを確認する場になってしまいます。

特に討議の初期段階では、まず委員から多様な観点を出してもらうことが必要です。

例えば決算審議であれば、

「この事業の決算を見る上で、どの点を確認すべきだと考えますか。」

「成果を判断するために、どのような数字や事実が必要ですか。」

「現時点で、どのような課題があると考えますか。」

と問いかけます。

すると、財政、利用状況、住民ニーズ、事業効果、実施体制、公平性、将来負担など、様々な観点が出てきます。

委員長は、それらを単に順番に聞くだけではなく、共通する内容をまとめ、重なりや違いを整理していきます。

その上で、

「今出された意見は、成果の評価に関するものと、実施方法に関するものに分けられそうです。」

「まず、成果が出ているかどうかを判断するための論点から整理してよいでしょうか。」

「成果が十分でないという認識は共通していますが、原因については意見が分かれています。次は原因を論点にしてはどうでしょうか。」

と、委員の意見から論点を形成していきます。

つまり、論点設定とは、委員長が答えを与えることではありません。

委員の観点を引き出し、整理し、委員会として議論できる問い、つまり「論点」へと組み直すことです。

委員長・副委員長に求められる具体的な進行

議員間討議における委員長・副委員長の役割は、単に発言者を指名し、時間を管理することではありません。

討議の目的を確認し、論点を設定し、出された意見を整理し、次に何を議論するかを示すことです。

研修では、委員長・副委員長が討議中に意識すべき点を、主に次の三つに整理しています。

①論点をピンポイントで設定する

論点が広すぎると、議員はそれぞれ異なる話を始めます。

「この決算についてどう考えますか。」

ではなく、

「この事業について、当初の目的に対して成果が出たと言えるか。」

「成果が十分でないとすれば、原因は事業の設計にあるのか、実施方法にあるのか。」

「次年度に改善を求める事項は何か。」

というように、議論できる大きさまで絞り込みます。

一度に全てを議論しようとせず、論点を一つずつ設定することが重要です。

②出た意見を、合意と不合意に分ける

意見を聞き続けるだけでは、討議はまとまりません。

一定の意見が出た段階で、委員長が整理します。

「成果が十分ではないという点は、おおむね共通しています。」

「一方で、その原因が周知不足なのか、制度設計なのかについては意見が分かれています。」

「次年度に改善が必要という認識は共通していますが、具体的な改善方法についてはさらに検討が必要です。」

このように整理することで、委員は現在地を共有できます。

全員が完全に同じ考えになる必要はありません。

何が合意され、何が合意されていないかを確認すること自体が、討議を前へ進めます。

③落としどころを決める

議員間討議は、話し続けることが目的ではありません。

最終的には、

・委員会として決める
・継続して調査・討議する
・執行部へ追加の説明や資料を求める
・質疑を再開する
・採決へ進む
・委員会として意見や提言をまとめる

など、次の行動を決める必要があります。

全ての討議で合意形成を図る必要はありません。

採決によって意思決定する場面もあります。

しかし、採決に至る前に、何が争点なのか、どこまで認識が共有されたのかを明らかにすることで、意思決定の質は高まります。

事実確認・質疑・討議を混同しない

委員会運営では、事実確認、執行部への質疑、議員間討議が混在しやすくなります。

この三つを整理することも、討議を機能させる上で重要です。

事実確認

数字、制度、経緯、実施内容など、判断の前提となる事実を確認します。

執行部への質疑

執行部の認識、評価、原因分析、今後の方針を確認します。

議員間討議

確認した事実と答弁を基に、議会としてどのように評価し、何を判断するかを議論します。

議員間討議の最中に事実関係が分からなくなった場合は、無理に推測で話を進めるべきではありません。

「この点は事実確認が必要である。」

「この数字がなければ判断できない。」

と整理し、質疑を再開することも重要です。

反対に、執行部への質疑だけを続けても、委員会としての評価は自動的には生まれません。

答弁を受けて、

「今の答弁をどのように評価するか。」

「委員会として問題だと考える点は何か。」

「追加で確認すべきことは何か。」

を議員間で整理する必要があります。

質疑と討議を往復することで、審議は深まっていきます。


4.委員会の「前・中・後」で討議を設計する

議員間討議は、委員会の途中で突然始めても、十分に機能しません。

今回の研修では、委員会の前・中・後を通じて討議を設計する考え方を共有しました。

委員会前

委員会前には、正副委員長を中心に「あらすじ」を整理します。

ここでいう「あらすじ」とは、結論を決めておくことではありません。

・今回の委員会で何を審査するのか
・どのような順序で進めるのか
・どの段階で議員間討議を行う可能性があるか
・どのような論点が想定されるか
・最終的に何を決める必要があるか

を整理しておくことです。

委員にも、事前に資料を読み込み、確認したい事実や問題意識を持って委員会へ参加してもらいます。

委員会中

委員会中は、質疑を続けるだけではなく、必要に応じて暫時休憩を活用します。

暫時休憩は、単なる休憩ではありません。

・ここまでの答弁で何が明らかになったか
・何がまだ明らかになっていないか
・どの論点をさらに深めるべきか
・誰が、何を質疑するか
・委員会としてどのように評価するか

を整理する時間です。

一度、議員同士で整理した上で質疑を再開することで、同じ内容の質問が繰り返されることを避け、より深い質疑につなげることができます。

委員会後

委員会後には、討議の結果を残すことが重要です。

・何を確認したか
・何を評価したか
・どの点で意見が一致したか
・どの点で意見が分かれたか
・今後何を調査するか
・一般質問、委員会代表質問、政策提言へどうつなげるか

を整理します。

決算審議で明らかになった課題を、その場の指摘だけで終わらせず、次年度予算の審査、一般質問、委員会の重点テーマ、政策提言へつなげる。

この一連の流れができることで、議員間討議は委員会活動を前へ進める役割を果たします。


5.議員間討議の先にあるもの

議員間討議は、議員同士が自由に話すための時間ではありません。

また、賛成・反対を述べ合う討論とも異なります。

議員間討議の目的は、

・多様な観点を洗い出す
・前提となる事実を確認する
・議論すべき論点を設定する
・執行部への質疑を深める
・委員会としての評価・考えを整理する
・より良い意思決定につなげる

ことにあります。

議論をすれば、自動的に審議が深まるわけではありません。

意見を出した後に整理する。

論点を一つずつ設定する。

合意できることと、合意できないことを分ける。

そして、最後に何を決めるのかを明確にする。

こうした具体的なファシリテーションがあって、初めて議員間討議は機能します。

私たちが研修で大切にしているのは、議員間討議の理念や先進事例を紹介するだけではなく、実際の委員会で起きている場面を基に、

「このとき、委員長は何と問いかけるのか。」

「出された意見を、どのように整理するのか。」

「どの時点で暫時休憩を入れるのか。」

「討議の結果を、どのように次の質疑や意思決定へつなげるのか。」

という運用まで具体化することです。

議会ごとに、人数、委員会構成、会期、議会事務局の体制、これまでの運営文化は異なります。

そのため、他議会の取組をそのまま導入するのではなく、それぞれの議会で実際に続けられる形へ落とし込むことが欠かせません。

制度を導入するだけでは、議会は変わりません。

委員会の進め方が変わり、討議の内容が変わり、意思決定の質が変わる。

その積み重ねが、監視機能や政策形成機能を高め、地域にとってより良い成果へつながります。

今後も、全国各地の議会の現場に入り、それぞれの実情を踏まえながら、議員間討議の活性化、委員会運営の改善、そして議会としてのより良い意思決定に向けた支援を続けてまいります。

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